前に書いた様に、神秘主義の多くは世界の成り行きと霊性進化は逆行する過程と考えてきた。しかしシュタイナーにおいては霊性進化は星の輪廻転生の中で進行し、星の輪廻・転生が人間の意識と肉体の進化に対応している。従って宇宙の進化と人間の霊性進化は重ならなければならないのだ。

ブラヴァツキー、シュタイナーの神智学の系譜が今もヘルメス学、新プラトン主義、カバラーの系譜を引く伝統的なキリスト教神秘主義と総合されずに孤立している理由はこの点にある。


世界の成り行きがV字回復をするエウリゲナでは、後半の上昇過程においては魂の神への帰還と世界の成り行きは一致する。しかし今度は世界の成り行きが神からの流出の流れに逆らって進まなければならないので、やはり論理に無理が生ずるのだ。これはヘーゲルの精神現象学や歴史哲学でも同様である。

「何故最も根源的なものが最も後に現れるのか?」この疑問をシュタイナーはどう解決しただろうか? それとも解決できていないだろうか?





実はV字回復のモチーフはブラヴァツキーやシュタイナーにも継承されている。
シュタイナーによれば、地球は土星 ➡ 太陽 ➡ 月 ➡ 地球と転生して来て今後は木星 ➡ 金星 ➡ ヴルカン星と転生を続ける予定だ。
(本当は土星以前もヴルカン星以後もあるのだが、現世の人間には見えないのだと言う。)
そして星の転生に合わせて人間の意識も下の様に進化する。

土星紀・・・トランス意識・全体意識
太陽紀・・・夢の無い眠りの意識
月紀・・・・形象意識・夢の意識
地球紀・・・対象意識・目覚めの意識
木星紀・・・自己意識的形象意識・心的意識
金星紀・・・自己意識的睡眠意識・超心的意識
ヴルカン星紀・・・自己意識的全体意識・霊的意識

                     (「薔薇十字会の神智学」p.119 )


地球紀までに覚醒の方向へ向かってきた意識は今後再び「形象意識 ➡ 睡眠意識 ➡ 全体意識」と元に戻るのである。ただし単純に戻るのではなく「自己意識的」、いわばヘーゲル的に言えば「対自的」になって元へ戻る。

この点はブラヴァツキーも同様だ。
彼女によれば宇宙の顕現と消滅のラウンドは7つのユガで構成され、第1から第4までに地球はだんだん固まって行き、第5から第7までで霊化されて再び精妙な形態に戻るのである。

ブラヴァツキーとシュタイナーは古代インドの循環的宇宙論に「進化」という直線的時間を持ち込む。
(ブラヴァツキーの神智学も非常に興味深いのだがシュタイナーほど読み込んでいないので、今はシュタイナーを理解する足場としてのみ言及する。)

ブラヴァツキーはシャンカラを多く引用しているが、概念構成にはサーンキャの要素も色濃く、事実上ヴェーダーンタとサーンキャを総合したプラーナ文献に現れた密教段階のヒンドゥー教(下の資料のmorfo氏はそれをヒンドゥー教神智学と呼ぶ)に基づいていると思われる。https://morfo.blog.ss-blog.jp/2011-09-27-1

そのヒンドゥー教神智学で説明される世界と人間の階層構造をシュタイナーと比較してみよう。左と中がヒンドゥー教神智学の対応関係、右と中がシュタイナーの対応関係である。

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ヒンドゥー教では、日常生活の覚醒した意識は物質に近く、従って次元の低いもので、夢はより次元が高く、熟睡が最も次元が高い。そして次元の高さは世界を構成する粒子の微細さと並行関係にある。世界の成り行きは上から下へ、霊的覚醒は下から上へ、という点はプロティノスと同じである。

霊的次元の高さが構成粒子の微細さと並行しているという考え方は現代スピリチュアリズムでも「精神の周波数の高さ」という発想で変形され継承されている。

シュタイナーでは熟睡はエーテル体に、夢見はアストラル体に、覚醒は自我に、大まかには対応している。

世界の成り行きも霊性進化も地球紀までは下降である。ヒンドゥー神智学と逆である事が分かる。インドでは瞑想と思念の消滅の先に神を見るのに対し、ヨーロッパでは理性的思考の極点に神を見るからだ。
しかし未来の木星、金星、ヴルカン星紀ではある意味でまた下から上へと戻るのである。シュタイナーではヨーロッパ的思考とインド的思考が総合されている。

古代ヨーロッパの神秘主義では粒子の細かさが精神の次元の高さに対応するという発想は無く、その代わりに一なる根源からの多様化、分解に従って物質に近く、従って次元は低くなると考える。






次に新プラトン主義とシュタイナーを比較してみるとやはり逆転している事が分かる。

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この対応表ではプロティノスもシュタイナーも霊性進化は下から上へだが、今度は世界の成り行きが逆になっている。プロティノスでは上から下へ順に流出するのに対しシュタイナーでは物質体、エーテル体、アストラル体、自我の順に生まれるからだ。

生物(原人間)の身体も鉱物的な感覚器官が芽生える土星紀、植物的な分泌腺に似た太陽紀、鉱物と植物と動物と人間が分離し始める月紀と上行するが、それは次第により高次の存在が外から入り込むからである。

低次のものから順番に上へと積み上がる事で人間存在が地層として表現される。これはそれまでの神秘主義にはできなかった事である。

そしてこれがヘッケル、ひいてはダーウィンの影響である事を考えれば、フロイトやユングの深層心理学とダーウィンの進化論は裏表の関係にある事が分かる。どちらも「世界の成り行きと霊性進化は逆行する」というそれまでの神秘主義の概念装置を壊したのである。