*この記事はここからの続きである。


森と湖の美しさに時間の経つのを忘れ、もう陽射しが高くなっているのに気づいた私はポケットから懐中時計を出した。9時を過ぎていた。2時間も湖面を見続けていた事になる。

「帰らないとな」私は病気で寝ている妻が心配になり歩き出したその時、初夏の森の精はもう一度私を誘惑しようとヒューッと一陣の風を吹かせた。思わず振り返ると湖面のさざ波はキラキラと輝き私のエスプリは無数の光の粒に砕け散った。




僕はバロック・ソナタの通奏低音はチェンバロよりピアノで演奏している方が好みなのだが、この妄想の中でチェンバロの美しさを再認識する。チェンバロはさざ波に砕け散る湖面の太陽、そしてフルートはその上を緩やかに吹き抜ける生ぬるい風だ。


*この記事はさらにここへ続く