フリーメイソンはカトリック教会と同様、国家を超えた組織を目指している。しかし17世紀から絶対王政の時代に入ると、王国同士で熾烈な勢力争いの戦争が絶えなくなり、メーソンの国際主義が危険なものと国王の目には映り始めた。


この頃までにメーソンはトップの貴族や王族まで加入するようになっていた。

特に戦争の時代になるとトップエリートの中に敵国と通じている人間がいては、いかにもまずい。各国の国王は表の教会と裏のフリーメイソン両方を国王の管理下に置こうとするようになる。

イギリス国教会の成立やフランスのガリカニズムもそういう流れの一つと見る事ができる。



ドイツでもプロイセンのフリードリヒ二世(後のフリードリヒ大王)がメイソンに加入すると、ドイツ独自の「三つの地球
」ロッジを作り、その教義に介入し始めた。(1740年)

「三つの地球」は中世の聖堂騎士団の後継者を目指していた。とは言っても、カトリックではなくルター派とカルヴァン派を統合したプロテスタントの聖堂騎士団を目指していたのである。

しかしここに二つの異分子が潜入し始める。

イエズス会とイルミナティである。

イエズス会はこの頃、スペイン国家の凋落から信用を失い、スペインでもフランスでも解散を命じられていた。

このイエズス会の残党が多く加入していたのが「古式黄金薔薇十字団」である。(1774年)


イエズス会の残党は二つの目的で薔薇十字団に潜入した。一つは「三つの地球」ロッジをカトリックに改宗させるためであり、もう一つはプロテスタントと共同して、共通の敵、啓蒙主義に対抗するためである。(啓蒙主義は、当時は革命運動の別名だった)



「三つの地球」はその上に上位団体として「聖堂騎士団」が乗る形になっていたが、次第に薔薇十字団に取って代わられていく。

この「古式黄金薔薇十字団」を財政面で支えたのがヘッセン=カッセル方伯、フリードリヒ二世である。彼は領内の屈強な若者を集めて軍事訓練を施し傭兵隊として他国へ貸し出す傭兵事業をやっていた。
この薔薇十字団と傭兵事業の関係は現代の「マルタ騎士団」に継承されている。イラク戦争で一躍有名になった「ブラックウォーター」など英米の民間軍事会社の幹部はそのほとんど全員がマルタ騎士団員である。


イルミナティは、インゴールシュタット大学の法学博士、アダム=ヴァイスハウプトによって「反イエズス会」の組織として作られた(1774年)が、次第に全ての宗教の解体と革命を目指す啓蒙主義の鬼っ子になっていった。
それはフリーメイソンのトップの人間だけを引っこ抜いてメイソンの「影の支配者」となる戦術を採った。当然、周りの王国から警戒され、各国の秘密警察のスパイが逆にイルミナティに潜入し、10年もしない内に「ハプスブルク家打倒計画」が暴露され弾圧され消滅する。

しかし残党は様々な形で別の組織に潜入して生き残った。

啓蒙主義派のメイソンと言えば、フランスの「九人姉妹」のロッジが有名である。ここにはヴォルテールを筆頭とする当時の名だたる知識人が多く集まり、フランス革命の一つの黒幕となった。ジャコバン党もここから生まれた。

「啓蒙派メーソン」の精神は今のフランスの「グラントリアン」(大東結社)に継承されている。グラントリアンにはフランス共産党員を兼ねている者が多くいる。ミッテラン元大統領もその一人だ。


フランスのイスラム教に対する態度がイギリスやドイツに較べても異様に厳しいのはこの啓蒙派メーソンの影響があると考えられる。



アメリカ独立戦争の時、独立軍に加担したのが、この九人姉妹とイルミナティだった。イルミナティの精神は今の「スカル&ボーンズ」に継承されている。スコッチメイソンはもちろん、薔薇十字団もイギリス側についた。薔薇十字団などは傭兵部隊をイギリス側の助っ人として派遣したくらいである。アメリカは今でもイルミナティの精神を継承する実験国家なのである。
つまりアメリカ独立、フランス大革命の時代には保守派のイギリス系スコッチメーソンと古式黄金薔薇十字団があり、啓蒙派としてイルミナティと九人姉妹が有ったわけである。アメリカ独立とフランス大革命がフリーメーソンの仕業だったという言い方は間違っているという事だ。




古式黄金薔薇十字団は17世紀のヴァレンティン=アンドレーエ等のルター派神秘主義の薔薇十字運動とは全く異なり、始めからフリーメイソンの上部団体として作られた。カバラーを取り入れた、完全な魔術結社である。
啓蒙主義に真っ向から対立する神秘派のメイソンであり、後のイギリスの「黄金の夜明け団」やフランスの「薔薇十字カバラ団」に大きな影響を与えた。