ロスチャイルド財閥は戦後、財閥としては解体、消滅したというのが公式の説明である。しかし彼らの政治力、経済力は衰えるどころかこの20年ほどの間にむしろ大きくなっている。


ロスチャイルドとロックフェラーの戦略の根本的違いは、
ロックフェラーが「CIA・ロックフェラー委員会」を作りアメリカの国家戦略の中で動いているのに対し、ロスチャイルドは初めから国際派であり、
一つの国家の戦略に収まり切らないという事である。

冷戦時代もロスチャイルドはソ連との取引を躊躇しなかった。


そしてもう一つの違いは、ロスチャイルドの婚姻戦略である。

ロスチャイルドは主な取引相手と婚姻関係を結び、親族になろうとする。だからヨーロッパ企業の系列は、資本の所有率だけでなく、閨閥をも見ないと本当の系列は分からないのだ。



ロスチャイルドを中心とする、ヨーロッパ企業の閨閥を詳しく分析した本に、広瀬隆氏の書いた「赤い盾」1~4 (集英社文庫)がある。

この本は閨閥を徹底的に暴くと同時にそれを企業の行動と関連付け、さらに名作映画のエピソードで香りを付けた名著である。僕のこの書庫でもこの本を基礎資料の一つにしている。

ちなみに、その外の基礎資料を挙げると、
「世界を動かす人脈」(中田安彦著)
「アメリカの政治地図」(園田義明著)
「世界財閥マップ」(久保田巌著)
などである。



「赤い盾」は名著なのだが、残念なのは何でもロスチャイルドに関連付け過ぎて「ロスチャイルド陰謀論」のようになっている事だ。
一度でもロスチャイルド家と婚姻関係を結んだ家族は
全て「赤い盾一族」として扱われる。

そこでロスチャイルドと二度以上婚姻関係を結んだ家族を選び、
他の資料と突き合わせて「本当にロスチャイルドの息のかかった企業、家族は何か」を洗い出してみた。



こうして「ロスチャイルドとほぼ一体である」と僕が
結論付けた家族はゴールドシュミット、シュテルン、グッゲンハイム、グンツブルグなどのユダヤ・ファミリーである。

南アフリカの金とダイヤを支配するオッペンハイマー財閥
ロスチャイルドと婚姻関係はないが行動を見るとロスチャイルドそのものだ。


ロスチャイルドとオッペンハイマーは年に一度必ず会い国際政治経済についての戦略を練るそうだ。

また企業で「ロスチャイルドそのもの」と言えるのは、
石油メジャーのロイヤルダッチ・シェル
食品加工のユニリーバ、カヴェナム
フランスの北部鉄道
鉱物メジャーのアングロ・アメリカン、リオティント、イメリス、アルセロール・ミタル、ニューモント
観光事業の地中海クラブ
投資銀行の香港上海銀行グループ
メディア産業のピアソン、トムソン・ロイター
などである。

同じイギリスの石油メジャーでもBP (ブリティッシュ・ペトロリアム)はロスチャイルドとベアリングの共同支配である。

ベアリング家は、イギリス東インド会社の最盛期の19世紀にそれをほぼ支配していた一族で、ロスチャイルドが台頭してから昔ほどの勢力は無くなったが今も様々な場面でロスチャイルドと協力し石油や南アフリカの鉱物の利権に関与している。

また投資銀行のラザール・フレールゴールドマン・サックスはロスチャイルドそのものではないが非常に深い関係にある。

アメリカで民主党の大統領になると大体ラザール・フレールか
ゴールドマン・サックスの幹部が財務長官になる。



ニューズ・コーポレーションを支配するメディア王ルパート・マードック氏は同じロスチャイルドでも反主流派のジェイコブ・ロスチャイルドの方である。

ジェイコブ・ロスチャイルドは、一族の投資銀行「N.M,ロスチャイルド」に外部から経営者を引き入れる主張をして純血主義のイヴリン・ロスチャイルドと対立した。
結局イヴリンの純血主義が保たれ、ジェイコブは独自の
ロスチャイルド投資信託」を作る事になった。
イギリス・ロスチャイルド家が二つに分裂したのである。



冷戦後ロックフェラーとロスチャイルドの協力関係が目立っているがどちらのロスチャイルドとどのロックフェラーなのかまだ僕にはよく分からない。いずれ副島隆彦氏の「ロスチャイルド 200年の栄光と挫折」を読んで最近の情勢を整理したい。