これから珪酸塩鉱物の結晶構造について下の資料を元に考える。
http://www.asahi-net.or.jp/~up5s-andu/SUISHO/suisho.htm#chikyu

全く知らなかった分野なのでカオス理論と同様半分以上がお勉強の記事になるが、勉強の嫌いな人はスルーしてもらって鉱物結晶に神秘を感じる人だけに読んでもらえればと思う。





高校の地学の教科書の様にマクロ的で大雑把な説明から始める。
出発点は高温のマグマである。マグマがゆっくり冷えるに従い、原始的な珪酸塩鉱物から順次晶出、沈降し始めると残ったマグマは金属が減少し比重の差で上昇すると共に水分が増加する。

本源マグマが冷えるにつれ融解温度の高い鉱物から結晶化し比重の差で下へ沈降する事で分化が始まる。全体的には金属を多く含むものほど融点が高いので早く結晶化し沈降する事になる。
それによりマグマは玄武岩質~安山岩質~流紋岩質と変化していく。

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表の一番上に玄武岩質が塩基性岩、流紋岩質は酸性岩となっているが、これはマグマ中の金属成分の量による。
マグマ中の金属イオンはルイス酸(電子対受容体)だが、単体の金属は酸と反応するので塩基「として振舞う」と言えるし、また金属の酸化物は塩基である所からこの様に名付けられたもので、実際の岩石が酸性や塩基性を示すわけではない。

ここでのテーマとしては岩石よりそれを構成する鉱物とその成分の方が重要だが、その変化は表の下の方を見れば分かる通りである。

マグマが冷えるにつれてカンラン石、輝石が減り、長石と石英、黒雲母が増える。そこでカンラン石、輝石、角閃石、長石、石英の成分、結晶構造、その生成条件の関係にテーマが絞られる。





珪酸塩は珪素原子の周囲を酸素原子4個で取り巻いたSiO4四面体を基礎とする。それが岩石の基礎となるのは次の様な理由がある。

(1)四面体の結合が非常に安定していて(SiO4)4- として一つの4価の陰イオンの様に振る舞う。


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上の4個の大きな球が酸素原子、中に挟まっている赤い球が珪素原子である。Si 4+2- の結合はイオン結合と共有結合の両方の性格を持っている。


(2)四面体がさらに酸素原子一個を共有して連結する。

資料の表現を借りれば、Si-O-Si結合は110~180°の比較的自由な角度が取れるボールジョイントのようなものである。


連結は周囲の温度、圧力の変化によって下の様な①~⑧の種類を生みそれが水分の影響や金属イオンとの結合でさらに多くの種類を生む。

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多くの参考書の説明はこの連結の分類で終わっているのだが、この資料の良い所はこの①から⑦⑧までを「進化」、そして同じ連結でも金属イオンや水分の状態などによって種差を生じる事を「分化」と表現し、その条件と結晶構造の関係を追っている事である。

①から⑦⑧への変化は大まかに言えば地上に近づくにつれ圧力が減り、より連結角が大きくなり、空隙の大きい形に変化していく事である。
連結角を小さくする力は圧力、大きくする力は酸素イオン同士の反発力であり、その反発力は温度が高いほど大きい。


鉱物を原始的なものから結晶構造を比べてみると、

カンラン石(上図の①)はバラバラのSiO4四面体が最密充填に近い規則的な並び方をしMgやFeのイオンによって結合している。

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輝石(上図の④)は鎖状の珪酸塩がCa、Na、Fe、Zn、Mn、Mgなどのイオンによって糸の様に束ねられている。
この単鎖が複鎖になったものが角閃石、面状になったのが雲母、立体になったものが長石である。

このSiO4四面体を繋ぐ金属イオンが鉱物結晶の分化、高度化に大きな役割を果たす。


金属イオンと水分の影響

SiO4四面体同士の連結に関与せずに残っている酸素イオンは、金属イオンとの結合に使われる。金属イオンはSiO4四面体をイオン結合で繋ぐ役割を果たす。その多くはマグネシウム、鉄、カルシウム、カリウムである。ただしアルミニウムだけは原子半径が珪素と近いので中心の珪素と置き換わる事ができる。(Al同形置換
 

金属イオンの種類と量が豊富にあった場合は、SiO4四面体の連結反応が阻害され原始的な珪酸塩鉱物が多量に形成され易い。

逆にカンラン石や輝石が晶出、沈降した残りのマグマは金属イオンが少なくなりSiO4四面体同士で結合し易くなる。

金属イオンの不足が結晶を高度化させる。

 
珪酸塩鉱物が順次晶出し始めると、残ったマグマが上昇すると共に水分濃度が上昇する。

珪素と酸素の結合はイオン結合と共有結合の両方の性質を持つのに対し、金属イオンと酸素の結合はイオン結合であり、高温の熱水によって加水分解され易く、イオン化傾向が小さい金属が多いほど加水分解されやすい。 

カンラン石(Mg)>輝石(Mg)>斜長石(Ca)>アルカリ長石(K)>雲母(K,Mg,Fe)>石英 

従って水分が多い環境ではカンラン石など原始的な鉱物の晶出が妨害され、初めから長石や石英が晶出する可能性が大きくなる。

多量の金属イオンは結晶の高度化を妨害し多量の水分はそれを促進する。


しかし高温・高圧下では水分による加水分解が珪素ー酸素結合にも及ぶ。

≡Si-O-Si≡+ H2O → ≡Si-OH + HO-Si≡  

左辺の水蒸気(H2O)が唯一高温の気体として存在するため、圧力が高いほど反応が右に進む。 そして、一部の網状連結が切断されると残っているSi-O-Si結合が酸素原子(O)を軸に回転するようになるため、粘性が著しく低下して融点が低下する。この融点低下は特に石英に顕著である。

高温の水蒸気は原始的珪酸塩の結晶を妨害するが、それが超高温・超高圧の水蒸気になると高度な珪酸塩の結晶を妨害すると言える。
従って結晶構造の高度化には水分の存在、金属の不足と同時に圧力の低下が必要である。


酸素不足の影響

結晶高度化を促す2番目の原因は酸素の不足である。
原始マグマ中の遊離鉄と水蒸気が反応して還元性の水素を発生する。

3Fe + 4H2O → 8H・ + Fe3O4

還元性水素は金属イオン(Me)を還元して、シラノール基(≡Si-OH)を生成し、シラノール基を有したSiO4四面体は、温度が低下するに従って脱水縮合反応を起こし連結する。

温度が1000℃を下回ると遊離鉄は還元性を失うが、アルミニウムが1000℃以下でも水と反応して水素を発生するので、複鎖状以降はアルミニウムが鉄に変わって主役になった可能性がある。
  Al + 3H2O → 3H・ + Al(OH)3


Al–同形置換の影響

複鎖状以降のSiO4連結体では水酸化アルミニウムが濃縮され、珪素とアルミニウムが入れ替わるAl同形置換が多く起こる様になる。
  
4価の珪素イオンに比べると3価のアルミニウムイオンは正電荷が1個不足し酸素イオンの負の結合手が1本余っていて、ここに、水素イオンやアルカリ金属イオン(Li+,Na+,K+)が捕獲され易い。

つまりAl同形置換は四面体を活性化させ金属イオンを取り込み易くする役割を果たす。更にSiO4四面体よりフレキシブルな構造を持ち長石のような複雑な連結体を構築することが可能となった。





大深度地下の超高圧に抗して鉱物結晶が隙間の多い構造に進化していくのは考えてみれば不思議なものである。それはエントロピー増大の法則に抗して秩序を高度化させる生命の神秘にも通ずる様だ。

この鉱物の神秘の機構として水分による加水分解と共に金属の多い鉱物が先に結晶化し沈降する事でマグマ中の金属イオンが少なくなる仕組みがあり、そこにはもちろんマントル対流というマクロの散逸構造も関与している。