20頭の牛を全て小屋に入れ、馬をロープで繋ぐとビリーは扉を閉めて粗末なベッドに腰掛け、いつもの様に枕元の小さい写真に語りかけた。

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ジェーン、なぜ俺をおいて逝ってしまったんだ? 
お前の笑顔を見る事だけが生き甲斐だったんだ・・・・
俺はこれからどうやって生きていけばいい?


彼女が何の病気かも分からないまま夫を残して死んでからもう2年が経つ。あれ以来ビリーは銃や投げ縄の練習も辞め、街の酒場へも顔を見せず一人でバーボンを浴びては亡き妻の写真に語りかける毎日だった。


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今夜もいい加減酔っ払ってベッドに横になるとドアをコンコンと叩く音がする。
「また飲み仲間が誘いに来たか、放っとけ」

だがドアを叩く音は続いた。
コンコン        コンコン        コンコン

「しかし今日は上品な叩き方だな」
ビルはふらつきながらドアをあけた。
「体調が悪いんだ、一人にして・・・・・・」
 

「ジェーン‼」
「ああ、ビリー!」二人は固く抱きしめ合った。
まさしくジェーンだった。あの時の青いブラウスと黒のスカートもそのままだった。

「3日しか居れないの。」
その一言でビリーは全てを理解した。
「そうか、じゃあ3日で30年分遊ぼうぜ。」
「まあ、ビリーったら相変わらず冗談が好きなのね。」
「俺はお前が居る時しか冗談が出てこないんだ。」
「ハハハハハハ」

二人は2年ぶりに笑い、徹夜で語り合った。翌日には以前のようにジェーンが甘いスクランブルエッグを作ってくれた。ビリーは最低限の餌やりだけで放牧は休んだ。

2日目は二人で馬に乗り山を駆け回った。
明るく幸せな2日間があっという間に過ぎた。



3日目、二人は寡黙だった。

「いつ行くんだ?」
「あと2時間よ。」
「そうか・・・・・」

ビリーは蓄音機でテネシーワルツをかけた。
2人は無言で2時間もチークダンスを踊った。踊り終わるとジェーンはエプロンで涙を拭った。

「もう来れないのか?」
「ええ。でもずっと見てるわ。」
「そうか、それなら俺も生きていける。」
「ビリー、たまにあの酒場も行ってやって。みんな心配してるわ。」
「そうだな。」
「それじゃあ・・・」

ジェーンはまた固くビリーを抱きしめるとドアの方へゆっくり歩き、ドアの前でもう一度振り返った。1分ほど見つめ合うとジェーンは次第に影が薄くなりフェイドアウトして行った。


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そこでふとビリーは目を覚ました。「夢か・・・・・・」
しかし部屋を見渡したビリーはジェーンのエプロンを見つけた。
夢じゃなかった。

もうビリーは一人で暗い酒を飲むのをやめた。
ジェーンがいつも見ていてくれるのを感じたからだ。
 

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