ピリア氏のジブリ神話学に触発され「風の谷のナウシカ」について書きたくなった。しかしナウシカの解釈についてはピリア氏にまかせて、僕はナウシカの映像の潜在的な拡がりを探りながらイメージの宇宙の中で遊んでみたい。


腐海こそナウシカの物語を神話的レベルまで深くしているものである。
腐海は最初は人類が世界戦争で汚してしまった結果としての瘴気(放射能?)を発散する化け物の様な森として登場する。瘴気は人間が吸い込むと数分で死亡する猛毒だ。腐海の植物は毎日2回、瘴気を胞子として飛ばしている。人間は防毒マスクを被ってしか腐海の森に入れない。

しかしその毒の森は幻想的な美しさを持っている。

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初めてナウシカを見た時、この幻想の森はどこかで見たような気がした。そうだ、神津島でのスキューバダイビングで見たサンゴの森だ。

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しかしそれだけではない。これは古生代の巨大シダ類の森でもある。

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この古生代の巨大シダ類は現代でもゼンマイやスギナなど小さくなって生き続けている。いや、それではまだ足りない。少し目線を変えればこの現代の被子植物とかけ離れた古代のシルエットを普通に見る事ができる。下は放線菌の顕微鏡写真である。

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ジブリアニメの中でもナウシカが飛び抜けているのは単に腐海の持つ重層的なイメージというだけでなく、この太古と現代でマクロとミクロが逆転する、その生命の進化と空間の逆転を腐海が体現しているからだ。

例えば映画版では現れないが、アニメージュ版に登場する巨大な粘菌。

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或いは腐海を支配する巨大化した昆虫もそうだ。

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その姿は古生代カンブリア紀の海中の生物を思わせる。

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腐海の蟲たちは瘴気を呼吸して生きる。ここにはもう一つの逆転がある。
生物の驚異的な力は毒を生命力に変えてしまうのである。
チェルノブイリの原子炉内で発見されたクリプトコッカス・ネオフォルマンスという真菌は放射能を食べてエネルギーに変える能力を持っている。


福島原発の超高濃度汚染水の中でも生きている微生物が発見された。

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考えて見れば酸素も本来は生物にとって猛毒だった。地球上で最初の細菌は硫黄呼吸をするものだったと想定されている。硫黄細菌の生命の素は今では毒となり、原始生物にとって猛毒だった酸素が高等動物にとっては生命の素となる。毒と命の素は相互に入れ替わる可能性を持っているのだ。金星の大気は硫酸の雲が取り巻く地獄だが、本当はこの地獄こそ生命が最も発生しやすい状態だったのかもしれない。




不思議なのはこの腐海は見る位置によって全く違う相貌を示すところだ。外側からぱっと見では廃墟にしか見えない。

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しかし中へ踏み込むと何やら動物を騙して誘うような怪しい美しさがある。

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そう言えば毒キノコや毒カエルにもケバケバしい色彩の物が多いようだ。

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そしてナウシカたちが墜落して落ちた腐海の最深部は驚くばかりの清浄な世界だった。

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神殿の柱のようにそびえる地下茎の天井からは光が差し、時々流砂の如くキラキラと輝く砂が降って来る。
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この透明感と動物の内部を思わせる形状にも見覚えがある。サグラダファミリアの内部だ。

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腐海は人類が汚した土壌を吸収し、浄化し、無害なガラス質に変えていたのだ。

ナウシカはそれ以前から腐海の胞子を採取して
秘密の地下室で水栽培し、水さえ綺麗なら瘴気を発しない事を証明していた。


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古生代を連想させる大小の逆転、毒と生命力の逆転。腐海の森の不思議は、実は何処にでもある生物の逆転能力に他ならない。