前に書いた様に、多くの中国武術の原型にあるのは古い長拳であると確信している。僕の直感では少林拳と長拳はもともと別系統である。長拳は両手に剣または刀を持って縦横に振り回す動作を原点としており、対する少林拳は「棍」 (棒術)が原点になっているので長拳とは原理的に異なる動きが見られる。( 例えば小洪拳の「斜行」)

今回は長拳の最も原初的な動作が如何なるものであったかを考えたい。

長拳の原点は両拳を縦拳(中国では立拳) にして往復ビンタの様に左右に振り回す動作だと思う。いちおうこれを「回し打ち」と呼ぼう。

僕がこの中国武術の回打に注目したのは、ボクシング流のフックは至近距離なら良いが少し遠い間合いで打つと親指を痛める(素手で全力で撃てば骨折するだろう)からである。また下図の査拳の弾腿一路の様に拳背で撃つやり方もあるが、これは親指は痛めないが今度は肩を壊し易い。僕のように突きを全て縦拳でやる者にとってはフックだけを180°返すというのは非常に不自然でもある。

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いろいろ試行錯誤の末、僕が最も合理的だと思うのは南拳式の立拳でしかも封眼拳で打つやり方である。

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            封眼拳

これなら親指も肩も痛めないし、他の潭腿、華拳、梅花拳、などとの整合性も良い。封眼拳は今度は衝拳(突き)で指を痛める危険性もあるが普段からサンドバッグや巻藁を封眼拳で突いていれば大丈夫だ。

断っておくがこれは僕の我流ではない。実際に香港のカンフー映画ではこの縦拳での往復ビンタパンチがよく出て来る。

この往復ビンタパンチの面白いのは下図の様に水平の往復から角度を付けていって斜め回転から縦回転まで自由に角度を変えられるところだ。角度を付けると両手を交互に八の字に振り回す形になる。

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そして下の動画の様にそれに前進、後退の動きを組み合わせる事もできる。(1:35〜)



また横回しの後に裏拳や肘打ちを加える事もできる。(0:25〜)




角度をつけても足の前進、後退のタイミングは同じだ。右腕を左から右へ振り、少し遅れて左腕を左から右へ振る時に左脚を前に出すのである。

これを斜め60°くらいにすると功力拳の「三環套月」になる。(0:30〜)




また12路潭腿の第3路もこれと同系だ。(0:40〜0:60)この場合は弾腿が入るが脚の踏み込みのタイミングを少し遅らせている事になる。





劈掛拳ではこの動きを全身のバネを使って鞭の様に打つ。(10:14〜10:30)




また縦の回転から横の回転に急に転じれば必然的に蔡李佛拳の様に片手を上に上げる事になる。(1:09〜)



これは側踢腿で片手が上に上がるのと同じ原理である。(下図左)  
功力拳の三環套月も同じだ。(同右)

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これとあれでは撃ち方が異なるという批判はあると思うが、今の流派というよりこれは回し打ちの原型とその変化、系統を概観したのである。要するに
① 両腕を往復ビンタの様に振り回す回し打ちが角度を水平から斜めから垂直まで自在に変えられるという事。

② 角度を変えても上歩退歩のタイミングはほぼ同じである事。
そう考える事により長拳系のほとんどの型を統一的に理解できるという事である。
現在の長拳の型では手を開いて回す動きが多いが、これは本来の剣または刀を持って振り回す形が残っているのだと考える。