ブクステフーデは、バッハが最も尊敬し、最も大きな影響を受けたオルガニストである。
彼は「北ドイツ・オルガン楽派」の集大成と言われる。

西洋美術の書庫で述べた様に、ドイツは16世紀のドイツ農民戦争と
17世紀の30年戦争で人口の4分の3が死んだと言われている。
女性や子供まで巻き込んだ悲惨な総力戦だったらしい。

絶望的な雰囲気の中で北ドイツを中心にルター派コラールが流行したのは自然の流れだと思われる。

 

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ルターの精神構造は日本の親鸞とものすごく似ている。
人間の善悪を遙かに超えた「運命」の絶対性。
その運命の巨大な力の前では「善人と悪人の差」などは取るに足りないものに過ぎない。
しかし、極限状況にまで追い詰められた人間が「止むに止まれぬ思い」で全存在を賭した決断を下す時、その決断の重みによって運命を変える事ができる。

二人は「善行」を信じない。
「人間性」「Human Nature」 に対する絶望の深さ。
それが「信仰のみによる救済」という観念となっていく。

どちらも「絶対他力本願」である。
そしてどちらも意に反して農民戦争のイデオロギーとなっていく。


明治初期に横浜に来たルター派の牧師たちは浄土真宗の文献を読んで大変驚き、何度も学習会を開いてはその研究成果を本国へ送った。

このルター派の真宗研究は宗教社会学者、マックス・ヴェーバーや危機神学のカール・バルトも知るところとなり、ヴェーバーは「ヒンドゥー教と仏教」の中でルター派敬虔主義と浄土真宗の精神構造の類似性を書き、カール・バルトはこの驚くべき類似を「神の不可知なる摂理の賜」とまで表現した。 
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この曲はルター派の信仰の特徴を良く表していると思う。
それは「悲痛な、暗い輝き」である。
悲痛さと華麗さが一つに溶け合っている。



この曲のコード進行は単純だ。
ほとんど Em  Bm  C  B7 の繰り返しである。

その単純な進行が何度もアレンジを変えて積み重ねられる内に、
まるでアーチを何重にも積み重ねたゴシック建築の様に神秘の
シルエットをなしていく。

シュバイツァー博士はバッハの音楽を「ドイツ神秘主義の一形態」と言い切り、パッサカーリア Cm をゴシックの大聖堂になぞらえた。

それはそのままこの曲にも当てはまると思う。