僕は寝る前にいつものように「胸腹式呼吸」をやっていた。これは胸式呼吸と腹式呼吸を交互に繰り返すもので、20歳の時に新聞配達をやって以来、身体の昼と夜のリズムがひっくり返ってしまい、その後十年以上も昼間に突然どうにもならない眠気に襲われる一方で夜の就寝時間になかなか眠れず寝ても夜中に中途覚醒する事に苦しめられ、様々な方法を試行錯誤した結果、徐々に、段階的に確立したメソッドである。
実は胸腹式呼吸は僕の独創ではなく、もともとは肥田春充氏の「肥田式剛健術」の基礎となる呼吸法なのだが、僕はこれに気功のイメージトレーニングを重ねたのである。
即ち、胸式呼吸の時には足の裏から気が入って頭から出る。腹式呼吸の時は頭から入って足から出るとイメージするのだ。以前に「科学的気功法」として書いた通りである。https
1で胸式呼吸、2で腹式呼吸と30くらいまで繰り返すと身体が空中に浮いている感覚になり、そのまま睡眠へ容易に入れる。
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その晩はいつもより疲れていたのですぐに眠れると思ったのだが意外になかなか眠りに落ちず様々な映像や雑念が浮かんでは消えていった。こういう時は無理に映像を消そうとせず流れに任せる事にしていた。
普段は白く見える気の流れが次第に色を帯びてきた。胸式呼吸では青く、腹式呼吸では赤く見える。そして僕はいつのまにか生物学者のヘッケルと対話していた。

エルンスト・ヘッケル
ヘッケルは「気は引っ張られて薄くなると青くなり圧縮されると赤くなるんだよ。」と教えてくれた。胸式呼吸の気は足から頭へ流れ、上に引っ張られている内に青くなる。腹式呼吸では頭から足へ流れ、腹部に溜められ赤くなる。
ヘッケルはこう言う。「色だけじゃなく流れの形にも注意してごらん」
そうか、これは流体力学の生きた検証なんだ。そう思って気の流れる線に注目した。青い気が頭から出る時、頭頂から花が開いてまた閉じる。その動きはクラゲが泳ぐ様子に似ていた。また頭から足へ流れる赤い気は足の親指の先から出る。その時僕は平泳ぎの脚を連想した。そう、平泳ぎの脚はカエルの真似のようだが、カエルは結局クラゲの真似をしているのだ。
足から頭へ、頭から足へと気の流れを見ている内に僕は胸式呼吸が植物的で腹式呼吸が動物的に思えてきた。植物は足に当たる根から水や養分を吸収し道管を通して葉や花に送る。動物は上の口から栄養を接種して下から出す。
ここでヘッケル博士がグノーシスを開示してくれる。
「これで分かっただろう、胸式呼吸では君は植物になり、腹式呼吸では動物になっている。
胸式呼吸の青い気は植物の吸収する水の色、腹式の赤は動物の血液の色なのだ。」
僕はふと思った疑問を口にした。「しかし一般的には胸式呼吸は交感神経を優位にし、腹式呼吸は副交感神経を優位にすると言われている。副交感神経は植物神経だ。おかしいな。」
するとヘッケルはゆっくり頷いて言った。「いい事に気がついたね。生理学では胸式呼吸が交感神経を優位にし動物的、腹式呼吸が植物的だ。しかしより深層では胸式呼吸の方が植物的になる。表層と深層では逆になるんだよ。」
「そうか、カバラーでセフィラの色が表層と深層で違うのもそのせいだったんだ!」
その時僕はヘッケルの後ろでゲーテやシュタイナーが微笑んでいるのを見た。
良かった、まだシュタイナーの霊は僕を見捨ててはいなかった。
ここで僕は目覚めた。いつの間にか夢を見ていたようだ。
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東洋医学の知見は生理学的知見と繋がる面もあるが深まるにつれ対立する面も出てくる事を忘れてはいけないと思う。東洋医学は生理学の延長では捉え切れないという事である。
少なくとも「胸式呼吸は交感神経を活発化させる」という理論は通常の心身状態の理論であり、ヨーガや気功には通用しない。
近頃のヨーガ教室では腹式呼吸でプラーナーヤーマを行う事を推奨し、胸式呼吸が身体に悪いような極論さえ出てきているが、それは西洋医学、生理学の影響を受けているからではないだろうか?
ハタヨーガの大家であるアイアンガー氏はヨーガ呼吸の基本は胸式呼吸であると言明しているし、ハタヨーガ・プラディーピカーにもそう書いてある。(腹式〜胸式〜上肺式と説明しているが、これは一般的な定義では胸式呼吸である。)

それに対し興味深いのは高藤聡一郎氏の「超能力仙道入門」によれば、小周天の行は腹式呼吸で下丹田に気を圧縮し熱気を発生させる事から始まるそうだ。
ここで胸式呼吸と腹式呼吸は「ヨーガ式と仙道式」とも言い換えられる。これはヨーガは植物的で仙道は動物的という事でもある。
今回のヘッケル博士との夢想対話でまた新たなインスピレーションを得た。さて、ヘッケル博士からワクワクをもらったところで選挙にでも行って来るか・・・・
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