ショパンはノクターン(夜想曲)のスタイルをフィールドから学び発展させたが、あまり変わらないペースで優雅に流れるフィールドに較べショパンのノクターンは激しい強弱と陰影を伴っている。

この13番はその中でもとりわけ劇的でもはやノクターンの枠から完全にはみ出ている。


出だしのテーマは左手の重苦しい低音が次第に迫り来る悲劇的運命の足音のように響く中で静かに提示される。暗いテーマの中にも所々に明るさが混じる陰影がショパンらしい。



中間部は打って変わって安堵の表情から始まる。過去を懐かしむ様なメロディーの中で白い円形ドームが見える。しかしこの安堵は長くは続かない。

第1テーマの運命の足音が地鳴りとなって復活しドームにヒビが入り安堵から緊張へと一変する。
地鳴りが近づくにつれヒビは急速に拡大し最後に神経症的な爆発で全てが崩壊した所で第1テーマが再現される。



再現部は最初の提示部より速いテンポで演奏され、積もり積もった悲しみが堰を切ったように噴出する。中間の安堵はこのカタストロフを引き立たせるための伏線に過ぎなかった。号泣が洪水となって全てを流し去った後、次第に弱まり深層へと沈んでいく諦念となって終わる。



ヴァレンティナ・イゴーシナはロシアのピアニストだ。美しすぎる彼女がこの曲を弾くと恋に苦しむ乙女の表情があまりに曲想にぴったりでツルゲーネフの「初恋」を連想する。